EV時代は来るのか、来ないのか
日本EVクラブ代表 舘内 端
いま、世界のEVは…
連日、「EV、大減速」、「EVからHEV(ハイブリッド)に転換」といったニュースがネットや新聞の紙面をにぎわせています。事実、米国ではHEVが良く売れているようです。また、「フォードはEVを1台売ると2000万円の赤字…」といった記事もあり、日本にいると世界はEVからHEVへと変換していくように感じられます。しかし、これはいわゆる歴史の進歩とは逆の“退歩”ではないでしょうか。
もちろん現実の歴史は進歩したり退歩したりするのでしょうが、「たとえ退歩したとしても、いずれそれを取り戻して進歩していく」というのが、私たちが教えられた近代の進歩主義です。それからすれば自動車はICEV(エンジン車)⇒HEV⇒PHEV⇒EVと変化し、より環境・エネルギー問題に対応した形へと“進歩”していくべきなのでしょう。
しかし、最近の世界の動きはロシアのウクライナへの侵攻や、イスラエルのガザ地区(パレスチナ)でのジェノサイド(大量虐殺)とも言うべき攻撃等、進歩主義観に逆行しているように見えます。第一次、第二次の悲惨な2つの世界大戦を経て、戦力をもって他国を侵略し、植民地化し、領土を拡大する帝国主義から、平等で、表現の自由があり、民主的で、平和で、豊かな差別のない世界へと変わってきたはずで、これを歴史の進歩と呼んできたはずですが…。
世界の自動車マーケットは、果たしてどのように変化していくのでしょうか
勢いを増すHEV
2023年の日本の自動車販売台数でEVのシェアはたった2.38%です。しかも軽EVを除くと1.67%(2万3千台)で、日本のEV普及は地を這うような状況です。一方、HEVの販売比率は42.6%と自動車販売のほぼ半分を占めています。日本はとっくにハイブリッド車の国なのです。
世界ではどうでしょうか。2023年のEVの世界販売台数は909万台で、販売台数の伸び率は25.8%でした。22年は66.4%の伸び率でしたから、急減速といっても良い数字です。もっとも66.4%という伸び率には無理があったと思います。販売台数の拡大を急ぎすぎたのではないでしょうか。むしろ25.8%という2023年の伸び率が健全だったように思えます。
これに対してHEVの伸びは2022年の15.2%に対して23年はおよそ2倍の31.4%でした。HEVの伸びが顕著なことがわかります。
ただし、HEVにはセルモーターで加速時にほんの少しエンジンを補助するだけの簡単なMHEVが25%も含まれています。
世界はようやくHEVに追いついた
HEVは決して世界に均一に普及しているわけではありません。では、HEVは世界でどのように普及しているのでしょうか。HEVの占める割合を地域別に見てみましょう。
ダントツは日本です。上記の電動車の92%近くをHEVが占めています。気になる北米は48%、およそ半分です。欧州では22%、東アジア・ASEANは57%、そして中国では16%です。ちなみに中国のEV比率は62%です。そして世界では上記のハイブリッド系モデルの中でHEVは32%で、EVが39%です(以上マークラインズのデータより)。
また、メーカー別ではトヨタがダントツで上位は日本メーカーが占めています。今さらですが日本はHEVの国なのです。その日本に世界が追い付きつつあるということでしょう。けっしてEVからHEVへと環境対応車の流れが変わってきたわけではないのです。
米国のテスラ社と中国のBYD社の販売台数の伸びが急速だったことで、あたかも世界の自動車はみなEVになるように見えましたが、すでに触れたようにEVの販売台数の伸びは急激でした。その結果、生産過剰となり工場の敷地には出荷できないEVがたまり、市場では急激な販売価格の低下が起こりました。
こうした昨今のEVの販売台数の伸びの鈍化を近視眼的にとらえて、「流れはEVからHEVに…」といった記事があふれたのではないかと思います。
庶民にとって時代の変革はなるべくゆっくりと起きてほしいものです。それからすれば十分にHEVの普及した日本は、EVへのシフトを安心して迎えられる時代に入ったといってよいでしょう。悪戯にHEVを推奨するのは時代錯誤です。
HEVで終わりではない
では自動車の環境対応は、いつどのような形で完了するのでしょうか。すでにお分かりだと思いますが2050年までに新型車はすべてCO2フリーでなければならないということです。この約束を守れるのは、現在の技術ではEVと水素で走る燃料電池車=FCEVの2種類だといわれています。
ただし水素を燃焼させる水素エンジン自動車は、高負荷の走行(急加速、高速走行等)では排ガスにNOx(窒素酸化物)が含まれ、これは大気汚染や温暖化をもたらすのでCO2フリーであっても果たして2050年の約束を守れる自動車かどうか疑問が残ります。またFCEVも解決すべき数多くの課題を抱えています。ということから、もっとも期待されるのはEVということになります。
EVはいつ買えばよいでしょうか?
いつからEVに切り替えればよいのでしょうか。いずれEVの価格は下がります。車両価格の多くを占める電池の材料と生産方法の改革が近いからです。エンジン車と同等の価格が望ましいでしょう。航続距離はどうでしょう ? これも伸びて中型車で500km前後、小型車で300から400kmほどまで伸びると思います。また、充電インフラですが、これも過不足のない程度に整うと思います。これらは2030年から2035年の間にいずれも可能になるでしょう。
では、それまではどうしましょうか。私は新型車を購入するのであれば、選択肢はやはりHEVではなくEVしかないと思っています。
ところが、いざEVを買おうとすると、充電用のコンセントを家につけなければ…、近くに急速充電器あったかな…、充電用のカードはどうする…、実家が降雪地帯だけど雪に埋まるかな…、近所の人に白い目で見られないかな…。と、心配事で頭がいっぱいになったりします。
ぜーんぶ、問題ありませんから安心して悩みを楽しんでください。これはEVを、というよりも進学、就職、結婚、引越、子供が生まれるなど、新しい生活に出発するときに誰でも味わう苦いけれども嬉しさも半分の経験です。勇気をもって立ち向かってください。地球の温暖化を止め、気候変動を防ぐ大事な第一歩なのですから。
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