「それ、四半世紀前に散々やりました」ありがち、な現在のEV開発

◇充電ケーブル複数本刺しが日常だった20年前のEV
2006年。マイナス35℃だった厳冬期ロシアの凍った間宮海峡に、EVジムニー2号機(コンバートEV)を持ち込んで海峡横断の冒険に挑戦した次の年だった。思えば今から18年も前の話になってしまったが、我々はEVジムニー初号機をシリーズハイブリッドのPHEVに組んで日本列島縦断の計画を始動した。
目標は宗谷岬から佐多岬まで走ってリッター50km/L以上の燃費を達成することだった。コツと言うほどの話ではないが、極力発電機を使わずに走れるかがポイントなので、アタックに参加可能なメンバーの休暇日数を考えると、系統からの充電の速さが勝負所だった。
もちろんチャデモ規格が生まれる前の話なので、当時、急速充電器と呼んでいたマグネチャージでさえ出力は6kWに過ぎなかったし、通常は家庭用の単相交流100Vコンセントを使っていたので、上限は1.5kWだった。
その上、当時の電気自動車は現在よりも電気を喰った。原因はモーターの種類や半導体の効率が低かったことに拠るが、現在よりもはるかに貧弱な充電インフラで、現在よりも電費の悪いEVを運用しなければならない時代だった。
当然、現在よりもEV運用の苦労は多かったわけだが、苦労が多いぶん知恵を使って工夫もした。発電機は定常運転させないとkWh当りのCO2排出量が増えてしまうので、バッテリーを2セット積んで、充電するバッテリーと走行するバッテリーとを分けることも試した。走行するバッテリーに充電器をつなぐと、発電機のエコスイッチが外れて定常運転しなくなるので、燃費が悪化するのを避けるためだった。
系統から充電する時の工夫は特に散々やった。一部20Aもあるが、家庭用の小ブレーカーは15Aが基本だ。つまり1500W以上の充電をするとブレーカーが落ちてしまう。しかし、一般家庭の配電盤にある小ブレーカーは1個ではなくて、通常60A程度の容量を持つ(契約に拠る)主幹の下流に、数個の小ブレーカーがぶら下がる構成になっている。
と言うことは、同じ家の中でも違う小ブレーカーの下流にある複数のコンセントから、別々につないで充電すれば、3kW、4.5kW、6kWと充電電流を増やすことが可能になる。
そんなわけで、当時のEVの充電では、充電ケーブルの2本刺し3本刺しは日常的な光景だった。上記「日本初PHEV日本列島縦断の旅」では、充電器を4器車載していたので、充電器2機ずつを別の小ブレーカーから給電する2本刺しが基本スタイルだった。

◇充電ガン二丁刺しのBYD「Denza N7」
そんな経験を持つ我が京都支部だが、去る3月に中国のEVメーカーBYDから出たニュースリリースが目にとまった。そこには、「BYDは『ダブルチャージングガン』超急速充電という新たな解決策を打ち出しました。」
とあり、20年前に散々やった充電ケーブルを2本刺した姿の「Denza N7 」の写真が載っていた。
何のことはない、四半世紀前のEV乗りたちが散々やってきた充電ケーブル複数刺しの話だ。「新たな解決法」だと思うのはBYDの勘違い、EVの歴史を知らないだけだ。
さらに言えば、車両へのエネルギー補給という観点で考えれば、Wタンクを装備した大型トラックやトレーラーが、軽油の給油ホースを2丁掛けするのと意味は同じだ。そんなことは大昔からやっている。そんな当たり前のことを「新たな解決法」と言うのは、EVの歴史を知らなさ過ぎる、と言わざるを得ない。

◇充電ケーブルの太さには上限がある
上記BYDの「Denza N7」もそうだが、ここ数年、大量のバッテリーを積んで、電費が悪くて電気をじゃぶじゃぶ使う反SDGsなEVのユーザーを中心に、チャデモ充電器の出力が弱くて充電に時間がかかる、という不平をよく耳にする。
上記問題の解決は意外と簡単で、ケーブルを液冷しつつ、より高電圧・大電流にすればおおむね解決する。
しかし、人と接触する可能性がある街中に高電圧が存在すること自体が危険だし、高電圧は整備士への危険性が格段に増す。さらに液冷充電ケーブルは、不凍液でも凍るような寒波が来た場合には、使っていない充電器も含めてすべての充電器を加温しないと使えなくなるので、使いもしない充電器を温めるのに電気を捨てる、という事態が発生する。
つまり、地球環境なんかどうでもよいから力づくで解決だ!! と思えば意外に簡単だが、それは、CO2排出削減というEV推進の「そもそもの目的」に反するので、本末転倒な話になる。

◇複数刺し充電の合理性
そう考えると、単位時間での充電量を増やす方法として、複数本刺しは合理的な面が多い。大きなキュービクルが必要になる点は喜ばしい話ではないが、現在一部のチャデモ充電器は90kWをケーブル液冷なしで運用しているので、この充電器を2台使って2本刺しすればケーブル液冷なしで180kWだし、3台使って3本刺しすれば270kWだ。液冷していないから、寒波の時に電気を捨てる無駄が発生する心配もない。
実は、京都支部ではこれを実際にやって見せるデモンストレーションをしようと思って準備を進めていた。我々のEVジムニーはチャデモの急速充電器が使える上に専用トレーラーがあるので、トレーラー側に追加バッテリーのセットを組んで、2本刺しで充電しつつガンガン走るデモ走行をやろうと考えていた。内々ではあるが、チャデモ協議会で責任ある立場にいらっしゃる方にコンタクトを取って、2本刺し充電をする場合の、充電カードの認証方法についてアドバイスをいただくなどして、具体的な段取りを進めていた。
我々は急速充電器の認証にはエネゲートさんの「エコQ電」カードを使っている。例えばABBの Terra 184は1筐体から充電線が2本出るタイプだが、1本目の充電中に同じ認証カードで2本目の認証をかけるのではなく、2本目の認証には別のカードを使うかビジターで起動するか、の方が間違いはないだろう、というアドバイスをいただいた。

◇現代EVの歴史
事程左様に、最近のEV関係の開発には「それ、25年前に散々やりましたけど」的な案件をよく見かける。「そんな初歩的なことに、今まで気付いてなかったの?」という内容もあれば、「またやるの?」という内容もある。
充電ケーブル複数刺しの件は前者だし、先日我々のお膝元京都市に誕生したバッテリー交換式EVの件は後者に当たる。バッテリー交換式は旧JARI時代の「日本EVフェスティバル」で東京R&Dさんが30秒もかからず交換して走っていたし、虎ノ門で派手に発表会をやったにも関わらず、その後2~3年で倒産したイスラエルの「ベタープレイス」社の件は記憶に新しいところだ。
もちろん新しい素材や技術の開発があって、失敗した案件に再チャレンジするのは結構なことだと思う。地元の話でもあるので、京都市のバッテリー交換式EVも上手く行くことを願っている。
ただ俯瞰的に見て、最近のEV開発関係者は、どうも「EVの歴史」、特に「少し前の現代EVの歴史」関係の勉強が不足していると感じる。
昭和ではなくて平成の話に関してだ。大半のEVは、ちょっと電流を流しただけでガンガン発熱してしまうようなしょぼいパワー素子に、ー酸鉛バッテリーから電気を供給して動かしていた時代だったけれども、その時代のEVマニアや開発者が知恵を絞って考えた創意工夫の中には現在でも見るべき要素は沢山あるし、優れた技術者ならば勉強、それに気付くはずだと私は思う。
新たな技術関発を待つまでもなく、過去から学べば解決可能なEV社会の問題点はまだまだ沢山ある、と温故知新の街京都を代表する支部としてお伝えしておこう。

氷結間宮海峡上で氷の割れ目にタイヤを落してスタックするEVジムニー2号機。人力ウインチ「チルホール」で、脱出作業中。右奥遠くに見えるのがユーラシア大陸の東海岸。この瞬間でマイナス30℃くらい。

2007年5月9日宗谷岬より「日本初PHEV日本列島縦断の旅」をスタート。

充電ケーブル2本刺し体制で充電するPHEVジムニー。充電ケーブル複数本刺しは、往時のEVユーザーは当たり前の様にやっていた。青森県の某キャンプ場にて。

PHEV用に専用カスタムしたオプティマ用充電器。スペックは48V10A。これを4器車載する。充電器2器ずつ別の小ブレーカーから給電を受ける。

3線が来ている一般的な家庭の分電盤の中はこんな感じ。右側に上下に分かれて小ブレーカーが10個並んでいる。

充電線2本出しの、ABB製Terra184充電器。実は1筐体から充電ケーブルが2本出ているタイプの充電器は、2本同時使用すると1本の倍の出力は出せない。半分にはならないが、1本当りはちょっと弱くなる。

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