EVに関わるようになって30 年。還暦を迎え、新たな気持ちでEVの未来を見つめたい

岡部 匡伸(東京都)

本格的にEVにかかわるようになって今年で30年になります。来年大阪で万博がある(できるかな?) ようですが、EVを展示して参加した愛知万博から来年で20年たちます。30代だった私も今年で還暦を迎えました。個人的にEVどころではなかったので、今年はちょっと自分のことを書こうと思います。

昨年6月の健康診断で「心雑音」の所見で要精密検査となってかかりつけ医へ。心臓肥大と心電図の異常がみつかり大学病院送りに。検査の結果、まさかの心臓弁膜症、それも重度との診断。手術をしないと命にかかわるとのこと。まったく自覚症状はなかったのですが、後から思えば電車にかけ込まなくなったとか、走らなくなったとか、活動的でなくなっていましたが普通に仕事はできるし、年のせいと思っていたので意外でした。高血圧なのに下の血圧だけが異常に下がるという典型的な弁膜症の症状が出ていたことを初めて知りました。弁を人工の部品に交換する弁置換術を行うとのこと。機械弁の写真を見たらまるでキャブレターの部品。なんか安っぽいなと思ったのですが、実際にはチタン合金製でかなり高価だとか。アメリカ製です。

これが機械弁、まさにスロットルバルブ。

弁膜症というのは、要は弁がうまく閉まらなくなって、その分心臓が無理をして心臓肥大になっているということのようです。バルブの当たりが悪くなって圧縮が下がって白煙を吹いてオーバーヒートしているエンジンみたいなものです。エンジンならボンネットを開ければすぐにヘッドカバーにたどり着けますが、人間の場合は肋骨があるのでそう簡単にはいきません。胸骨を縦に切って肋骨を左右に広げて!? エンジンと違って止めっぱなしにできないので人工心肺で呼吸と循環を確保しながらの手術とのこと(この話、直接医師から聞くと結構怖いです)。

11月初めの入院が決まりました。11月に車検が切れてしまうのでプリウスを10月中に車検に出さないといけません。ところが工場に持っていく途中で見慣れない警告灯が・・・。ハイブリッドシステムの異常との表示も。車検を予定していた工場では修理を断られたので近くのトヨタのディーラーへ。
ハイブリッドのバッテリーがNGとの診断、人間の前に車が先に入院してしまいました。再生品のバッテリーへの交換で思ったより安く直り、車検も取れました。2006年式、14万キロなので寿命だったのでしょう。人間も車も部品があれば修理ができるということのようです。

11月6日に入院、より精密な検査で4つある心臓の弁のうち3つがダメになっていることがわかり、一度に3か所の手術をすることに。14日に手術、もちろん全身麻酔で全く記憶はないのですが、朝から夜までかかる大手術だったそうです。翌朝集中治療室で目を覚ましてからは、高度医療を大量に投入して信じられない速度で回復させられました。

人工心肺では最小限の呼吸と循環を確保するだけなので心臓と肺の状態がかなり落ちています。絶対安静を維持して精密点滴を何本もつないで体の状態を保ち、9チャンネルのモニターで監視しながら外付けのペースメーカーで心拍や血圧を制御し、80%という高濃度の酸素を掃除機のようなポンプで大量に吸わせて呼吸を補助します。パソコンをつないでエンジンのセッティングを調整して、圧縮が落ちている分スーパーチャージャーで大量の酸素を送り込んで回転を維持しているようなものです。幸い人間は寝ていても勝手に自分の力で回復してくれるので、少しずつできることが増えていることがわかります。
ずいぶん自動車の修理をしましたが、やっと回り始めたエンジンの回転が徐々に安定していく、あの感じに近いものを感じました。手術から32時間後には起き上がって水を飲み、翌日からは普通に食事をはじめ、1週間後には自力で立ち上がれるようになり、入院から21日で無事退院しました。執刀医によれば、あと2 〜3ヶ月放置したら心不全を起こしていたとのこと。健診の要精密検査を無視していたら、と思うとぞっとしました。

1か月の自宅療養の後、年明けから職場に復帰しました。春になってやっと少し回復したなと感じています。ただ、機械弁による血栓を防止するために、血液サラサラにする薬を一生飲まないといけないので、けがをすると非常に危険です。このため、自動車の整備やレストアはあきらめました。こんな不便はありますが、幸い日常生活や仕事には大きな支障はなく、普通の生活ができています。

あちこちガタが来ていますが、還暦とはよく言ったもので、新しい命をもらったと思い、大切に毎日を生きていこうと思います。日本のEVはまだまだこれからという感じですが、しばらくはEVの未来を見つめることができそうです。

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