新型コロナウイルスが猛威を振るっています。
日本EVクラブの会員のみなさん、EVファンのみなさん。いかがお過ごしでしょうか。
コロナに負けず、気候変動にも負けずがんばりましょう。
今日もQ&AでEVの勉強をしましょう。

日本EVクラブ 代表理事 舘内 端

『EV相談室』記事一覧
【第1回】日本でEVがあまり普及しない原因は何?
【第2回】未来の車はEVしかない?
【第3回】Q. どのていど(充電)スタンドが配置されると、電気自動車はガソリン車とおきかわりますか?(前半)

【第3回】Q. どのていど(充電)スタンドが配置されると、電気自動車はガソリン車とおきかわりますか?

親子電気レーシングカート組立&EV試乗会に参加された小学生からの質問の後編です。

A. (後編)後続距離が長くなり、充電時間が短くなれば・・・

さて、充電方法を整理すると、
A 家に電柱から流れてくる電気で専用のコンセントを介して、あるいはホテルや施設の普通充電器と呼ばれる充電器で充電する
B カーディーラーや公共施設、その他に特別に設置された急速充電器でする
という2つの方法があります。

普通充電
Aの方法では流れる電気の量が少ないので充電に時間がかかります。しかし、家に戻ってから朝まで寝ている間に充電が完了するので、とても便利です。たとえ電池が空に近い状態でも、ほぼ満充電にできます。
ということで、自宅以外でも旅行等で出かけた先のホテルや宿舎でAの方法で充電できると嬉しいです。これは目的地充電と呼ばれ、各地の観光地でぽつぽつ設置が始まりました。
日本EVクラブはEVラリーを毎年、白馬で開催しています。白馬村ではコンセントの設置に村の補助も付くこともあり、宿泊施設の半分ほどに充電設備があります。

急速充電
しかし、遠くに行きたい人、前日の夜、忙しくて十分に充電できなかった人、半分以下の電気なのに急に遠くに行かなければならなくなった人。こうした人たちにも電気自動車が使えたら、もっと電気自動車を好きなってもらえるに違いありません。行先の途中で充電できる(経路充電)急速充電器は必要な設備です。
ただし、満充電の電力量の80%ほどしか充電できません。80%前後を超えると、電池の温度が規定値よりも上がったり、充電の電流がほとんど流れなくなって、充電に時間がかかるようになるからです。

交流→直流に変換
家やお店、工場などに電線で運ばれる電気は交流です。一方、乾電池の電気は直流です。電気自動車に積まれている走行用の電池も直流です。

Aの方法で充電するには交流を直流に変換する必要があります。この変換器を充電器と呼びますが、電気自動車にあらかじめ搭載してあります。性能は3kWから6kWです。電気自動車には小型の充電器が載っているということです。
ちなみに3kW(キロワット)は、たとえば1000W(1kW)の電子レンジを3台使える電気の力です。

Bでは大型の変換器で大電流の直流を作ります。急速充電器です。大電流を電池に流せるので、充電時間を短くできるのです。ということで、Bでは電柱から太い電線で急速充電器に電気を送ります。急速充電器は50kWが最大ですが、150kWとさらに大きな出力の充電器に近いうちに少しずつ換っていきます。

もうお分かりだと思いますが、電柱の電線に流れる電気で電気自動車を充電するには、交流・直流変換器、つまり充電器が必要だということです。
小型の充電器は電気自動車に搭載され、大型の急速充電器はカーディーラー等に設置されています。

急速充電器 VS ガソリンスタンド どっちが安い
急速充電器の設置費用は数百万円から1000万円ほどです。そして、設置するのに必要な敷地の広さは、自動車が1台駐車できるスペースがあれば可能です。

一方、ガソリン車で充電器に匹敵する装置は不要です。その代わりガソリンスタンドという大きな設備が必要です。ガソリンスタンドの地下には巨大なタンクが埋設されています。その寿命が尽きつつあり、交換には数千万円かかるということで、ガソリンスタンドを廃業にする経営者も多く、ガソリンスタンド減少の原因の一つになっています
また、新設するには小さなスタンドで1億数千万円プラス土地代がかかるといわれます。土地の広さは狭くても50坪ほどは必要でしょう。

電気自動車では電気、ガソリン自動車ではガソリンというエネルギーを補給する設備が必要ですが、広さも費用も電気自動車の方が圧倒的に狭くても可能で、安くなります。ただし、エネルギーを自動車に補填する時間は比べようもなくガソリン車が短時間で済みます。

ガソリン VS 電気 どっちが便利
つぎにガソリンと電気の性質の違いについて考えてみます。いかにガソリンが便利な燃料なのか。わかると思います。しかし、地球を熱くしてしまう二酸化炭素の排出量では、圧倒的に電気が少ないのです。ただし、発電に使う燃料によって二酸化炭素の排出量が大きく違ってきます。石炭火力発電はまったく論外です。

数値を使って考えましょうか。少し複雑ですが、がんばってついてきてくださいね。「わからない」と思う人は、飛ばして読んでください。あるいはお父さんやお母さんに教えてもらってください。えっ、お父さんもわからないってか? ウーン。おまかせします。

フィットやヤリス 小型車満タン1分20秒
たとえばホンダ・フィットやトヨタ・ヤリス等の小型車のガソリンタンクの容量は40リットルほどです。灯油のポリタンは18リットルですから、40リットルはポリタン2個ともう少しの量です。フィットあるいはヤリス等の小型ガソリン車のタンクが空になったとして、満タンにするにはガソリンスタンドでどのくらいの時間がかかるでしょう。

ガソリンスタンドの給油ノズルから流れ出るガソリンの量は、最大で1分間に60リットルです。これはどのくらいの勢いかというと、たとえばお風呂の湯船はおよそ160リットルです。1分間に60リットル入れられるとすると、2分40秒で湯舟をいっぱいにできます。かなりの勢いです。

ガソリンスタンドの給油ノズルからは、実際は1分間に30リットルから多くて40リットルではないでしょうか。30リットルとすればフィットやヤリス等の小型車の40リットルのタンクを満タンにするには1分20秒ほどですみます。ということで、ガソリン自動車ではあっというまに燃料を補給できるのです。では、電気自動車ではどうでしょうか。

充電時間を調べる
電気自動車にフィットやヤリスなどの小型車と同じだけの量のエネルギーを補給(充電)するときにかかる時間でくらべましょう。これも少し複雑です。
まずガソリン40リットルのエネルギーを調べます。それと同じエネルギーの電気の量を計算します。その電気量を充電するのに必要な時間を計算して、40リットルのガソリンを給油するのに必要な時間とくらべます。

ガソリン40リットルは33万kcal(キロカロリー)
さて、人間が生活するには(大人の)女性で1日に2000kcal(キロカロリー)のほどのエネルギーを食物から得る必要があります。このように人間の力の源としてもエネルギーという言葉を使います。
フィットやヤリスなどエンジンで走る自動車(内燃機関自動車)はガソリンのエネルギーを使って走ります。たとえば40リットルのガソリンのエネルギーは33万kcalです。女性では165日生きられる分のエネルギーです。これを電気のエネルギーに変換します。

ガソリン1リットルは8266kcal
ガソリン40リットル 40×8266=33万0640kcal

1kWhは860kcal
電気のエネルギーの表示にはkWh(キロワットアワー)が使われます
K(キロ)は1000の単位です。W(ワット)は、たとえば1000Wのトースターとか、20WのLEDとか、500Wの電子レンジといった使い方をします。どのくらいの力を出せるかを示す単位です。数値が大きいほど大きな力を出せます。hはhour(アワー、時間)です。

たとえば1000Wのトースターを1時間使うと、1000W×1時間(h)で1kWhですから、使ったエネルギーは1kWh(1キロワットアワー)となります。

1000W(ワット)×1h(時間)=1000Wh(ワット・アワー)
1000W=1kW  1000Wh=1kWh

また、電気エネルギーはkcal(キロカロリー)でも表せます。ちなみに1kWhは860kcalです。女性が必要な1日のエネルギーは2000kcalでした。これを電気エネルギーで表すと、2000÷860=2.33kWhです。電気自動車のニッサン・リーフがおよそ15.5km走れるエネルギーです。

1kWh=860kWh
2000kcal÷860kcal/kWh=2.33kWh=2330Wh

女性の1日に必要な熱量は2000kcal
2000kcalは2330Whで
リーフは1km走るのに150Whの電力量を使うから
2330Wh÷150Wh/km=15.5km

これをどう考えるですが、成人の女性が1日生きられるエネルギーで電気自動車(リーフ)は15.5kmしか走れないのか、15.5kmも走れるのか。ご家族で考えてみてください。

まだまだあきらめてはだめです。ただし、これからの話がしっかり分かるのは工業高校あるいは大学の工学部を卒業した人ですから、すごいことなのです。

ガソリン1トットルは9.61kWhのエネルギー
さて、ガソリン1リットルの持っている熱エネルギーは1リットルで8266kcalです。女性が1日に消費するカロリーのおよそ4倍です。
ところで1kWhは860kcalでしたから、1リットルのガソリンのエネルギーを電気エネルギーに換算すると、8266÷860=9.61kWhとなります。

ガソリン1リットルは9.61kW h

フィットやヤリスなどの小型車のガソリンタンクに入っている40リットルのガソリンを電気エネルギーに換算すると、ガソリン1リットルで9.61kWhですから、40×9.61=384.4kWhとなります。

ガソリン40リットルは、9.61×40=384.4kWh

384.4kWhの電力量というのは、ヨーロッパの高級電気自動車でさえ搭載している電池の電力量は100kWhほどですから、その3.8倍です。
ガソリンって小さな体積、軽くて、ものすごいエネルギーを蓄えていることがお分かりいただけたでしょうか。

ガソリンと同じ体積、重量でこれだけのエネルギーを蓄えられる電池は、おそらく開発不可能だと思います。ということで、この点に関してはガソリンが圧倒的に優位です。

だから電気自動車は普及しないとおっしゃる方もいます。しかし、2050年には私たちが使うエネルギーは絶対的にゼロCO2でなければなりません。これはガソリンには不可能です。
ちなみにガソリン1リットルが燃えると、2.32kgのCO2が生まれます。40リットルでは、40リットル×2.32kg/ℓ=92.5kgものCO2が生まれます。

フィット/ヤリス級は40リットルで600km走行
さて、フィットやヤリス等の小型車で(ハブリッドではなく1.5リッターのガソリン車)の実燃費は1リットルあたりおよそ15kmでしょうか。もちろん、リッター22kmといった燃費を出された方もいらっしゃるかもしれませんが、とりあえずこうしましょう。
40リットル×15km/ℓ=600kmですから、40リットルのガソリンで600km走れます。
CO2排出量は、92.8kgですから、1km走行あたりでは、92.8÷600=0.155kg、なので155g/kmとなります。

ガソリン小型車の「電費」VS リーフの電費
40リットル=384.4kWhの電力量で600km走るということですから、いわゆる電費に換算すると1km走るのに必要な電力量は、

384.4÷600=0.641kWh

です。
1000倍してkWhからWhに換算すると641Whですから、641Wh/kmとなります。
フィット等の小型ガソリン車で1km走るには、そのとき必要なエネルギーを電気で表すと、電気コタツを1時間使った時の電力量に近いおよそ641Whということです。

小型ガソリン車の電費
384.4kWh÷600km=0.641kWh/km=641Wh/km

一方、電気自動車のリーフの実電費はおよそ150Wh/kmです。1km走るのに150Wの電球を1時間点灯したのと同じ150Wh(ワットアワー)の電力量を使います。
フィットクラスの小型ガソリン車は1km走るのに641Whの電力量が必要です。リーフは小型ガソリン車の4.27倍も効率が良いということになります。これを燃費に換算すると、リッター64キロとなります。

小型ガソリン車の燃費15km/ℓ
リーフは4.27倍効率が良いので、
15km/ℓ×4.27 =64km/ℓ

ただし、燃費や電費ほど計測の条件でバラツキのある性能もありません。たまたま...ということにしましょう。

小型車の燃料は30kg リーフの電池は440kg
ところでリーフe+の搭載電池の電力量は62kWhです。リーフはリーフeプラスに進歩して、WLTCというテストモードで航続距離458kmを得て、ようやくガソリンン・フィットの航続距離600kmに少し近づいたということになります。
この場合のリーフの燃費は(実燃費の150Wh/kmではなく)、WLTCモードのテスト値では135Wh/kmです。
リーフeプラスの電池重量は440kgで、フィットのガソリン40リットルの重さはおよそ30kg。エネルギーの重量を比べるとまったく勝負になりません。

充電時間は15時間
さて、電気自動車がフィットやヤリス等の小型ガソリン車と同じ距離を走るために必要な電力量を充電するのにかかる時間を計算しましょう。
小型ガソリン車を満タンにして40リッターのガソリンで走れる距離を600kmとします。満タンには1分20秒かかります。一方、電気自動車のリーフで600km走るための電力量は、1km走るのに150Whの電力量が必要とすると、600×150=9000Wh=90kWhとなります。

リーフが600km走るのに必要な電力量は90kWh(電池を満充電にして電力量62kWhですから、途中で充電しないと走りきれません)

まず自宅やホテル等の普通充電ではどうでしょう。充電の電力を最大の6kWとすると、

90kWh ÷ 6kW = 15h(時間)

15時間かかります。自宅のブレーカーの容量が小さく、3kWの充電では2倍の30時間です。600km走行分の充電には6kWで15時間、3kWで30時間です。

自宅での充電時の注意
6kWの場合、200V(ボルト)で30Aの電流が流れます
3KWの場合、200vで15Aの電流が流れます。充電しながら家電を使う場合は、家のブレーカーの電流、契約電流を確かめて、充電の電流と家電の電流の合計が、それを超えないようにしましょう。超えるとブレーカーが落ちる場合があります。
注)
たとえば500Wの電子レンジでは最大で5A(アンペア)、1000Wのトースターでは10Aの電流が流れます。計算の仕方は、
500W÷100V=5A
1000W÷100V=10A
です。

急速充電で1時間半 480km走行可能
では急速充電ではどうでしょうか。まず急速充電器の出力ですが最大50kW、最小20kWほどです。
単純な計算では、50kWの場合で90kWh÷50kW=1.8h、1.8時間、1時間42分ですが、実際には満充電に近づくと、必要な90kWhの80%の72kWh程度で実質的な充電はストップします。ここまで早くて1時間半はかかるでしょうか。そして1時半ほどの充電で72kWh、およそ480km走れます。

満充電の80%でストップ
1時間半の充電で480km走行可能

600km走って1時間半の休憩を取り、その後に480km走れるわけですから、いいような気もしますが...。480kmを休憩も入れず、一気に走るのはけっこうきついですよ。

しかし、サービスエリア(SA)に着いたら急速充電器に先客がいて、1時間半も待たされるとも限りません。そんな時は、次のSAまで走ってみるのもよいでしょう。ですから、電池の電力量のギリギリまで走らないでSAに寄るようにしましょう。電気自動車での長距離ドライブは走行距離に十分余裕をもたないといけません。

近い将来に18分の充電で480km
つけ加えれば、これから登場する最新型の電気自動車の電池は第5世代(G5)となり、充電時間は30%ほど短くなるといわれています。また、急速充電器の出力も3倍の150kWになるとも言われますから、1時間16分かかる(80%までの)充電が3分の1の25分に、さらに電池の進歩で30%短い18分になる可能性があります。600km走って18分充電して、これで480km走行可能。これくらいで良いのではないでしょうか。

航続距離が長くなり、充電時間が短くなるのは...
では電池が軽くなり、航続距離が長くなり、充電時間が短くなり、充電器の数がもっと多くなれば、電気自動車は普及するのでしょうか。
普及すると思います。おそらく航続距離が500~600km、充電時間が10分、急速充電器の数がガソリンスタンドの半分になり、電気自動車の価格がガソリン車の1.1倍ほどになると急速に普及するでしょう。
しかし、そうして「便利」で「快適」な電気自動車になったとき、ガソリン自動車が抱えてきたと同じ問題を電気自動車も抱えることにならないか。私はとても心配です。


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