実走400km一気乗り!
所要時間6時間、消費ガソリン4Lの旅。

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「ハイブリッドよりエコ、EVより便利」を、
レンジエクステンダー付i3で証明する。

鈴木一史(日本EVクラブ京都支部)


豊富なレンジエキステンダー付EVの経験

「ハイブリッドよりエコ、EVより便利」という文言は、今から9年前の2007年に、手造りEVに3.2kWのレンジエクステンダーを搭載し、宗谷岬から佐多岬まで日本列島を縦断した時に掲げた標語です。

更に2年遡った2005年には、厳冬期のロシアに4WDの手造りEVを運び、レンジエキステンダーを橇で牽引しつつ凍った海の上を走りました。

更に更に遡ることその2年前の2003年には、風力と太陽光発電で構成されたレンジエクステンダーをトレーラーに積み、それをEVで曳きながら京都市から伊勢市まで自然エネルギーだけで旅をした経験も有ります。

ことほど左様に、私はレンジエキステンダー付EVに関して、バリエーション豊富な経験を持つ「EVヲタク」な男であります。

レンジエキステンダー付i3ならば、連続長距離走行も可能。

さて、そんな私は自動車ジャーナリストではないので、これまでi3を運転する機会には恵まれませんでした。しかし、EVに関する長い経験から、公開されたスペックを見て「エクステンダー付i3ならば、EV特有の不便さはほぼ皆無だろうな」と推察しておりました。

今回i3に乗る機会を得て、私は上記の性能を確かめてみたいと考えました。そこで、レンジエキステンダー付i3の航続距離と言われる300kmを大きく超える距離を設定し、可能な限りガソリンを使わないように留意(つまり環境性能に配慮)しつつ、且つ充電待ちによる時間ロスを最低限に留めながら、その実力を示すチャレンジに挑戦してみることとしました。

具体的には、名神高速京都東ICから、東名高速海老名SA間の405kmをルートに設定しました。新名神・伊勢湾岸・新東名を経由する一般的なルートです。ここを一気に走破することで、エクステンダー付ならばi3は電欠で行き倒れすることは無いし、それでいてCO2排出量は極めて少なく、利便性もガソリン自動車とほぼ変わらない姿を示す計画としたのです。

CD走行とCS走行

では、実走レポートに移りたいと思いますが、その前に2つの用語に御了解を頂きたいと思います。ひとつはCD走行(Charge Depleting走行)という用語、これはバッテリーに溜めた電気を 食い潰しながら走るモードを言います。もうひとつはCS走行(Charge Sustaining走行)、これは発電機(エクステンダー)を稼働させながら走行するモードのことです。実走レポートの中で度々使っているので、宜しく御了解下さい。


実走レポート

京都東インター流入時間。11時16分に名神高速の京都東インターからスタートした。

京都東インター流入時間。11時16分に名神高速の京都東インターからスタートした。

京都東ICスタート(2016年2月4日 11時16分 晴 気温11度)

ETCゲートの真下でトリップを0に戻してアタックを開始しました。高速に乗る直前にガソリンは満タンにしましたが、インターチェンジの横に自宅が有る人は特別でしょうから、バッテリーSOC(充電レベル)は72%からのスタートとしました。CS走行すれば、平坦な一般道を走る限りi3のバッテリーは減りませんので、CS走行への手動切替が可能になるSOC75%は誰にでも可能なスタート条件だからです。

スタート時点でのメーター表示は、CS走行可能距離が97km、CD走行可能距離が68kmでした。しかし、この表示は直前のドライバーの運転具合でコロコロ変わりますし、COMFORTモードに切り替えても変わります。いずれにしても、事前の計画で最初の充電は新名神土山SAと決めていたので、余裕を持ってCD走行で届く距離でした。尚、走行モードの基本は「ECO PRO」、エアコンは21度の設定としました。

レンジエキステンダーを上手に使うコツは、事前に走行プランを練っておくこと。今回は紙に書いて助手席の前に貼って走った。Pマークの数値が高速道路のキロポスト表示だ。

レンジエキステンダーを上手に使うコツは、事前に走行プランを練っておくこと。今回は紙に書いて助手席の前に貼って走った。Pマークの数値が高速道路のキロポスト表示だ。

充電1回目(33分経過 49.6km走行)

土山SAで充電中のi3。狸の焼き物で有名な信楽や忍者で有名な甲賀はすぐ近くだ。

土山SAで充電中のi3。狸の焼き物で有名な信楽や忍者で有名な甲賀はすぐ近くだ。

新名神土山SAで1回目の充電。エクステンダー付EVを上手く使うコツは、絶対必要な停車時間内で効率良く充電し、充電の為だけの停車時間を減らすことです。その為には充電開始時のSOCは低い方がベターです。急速充電器の充電量は時間に比例するのではなく、充電終期には電流量が落ちるからです。つまり、バッテリーを空に近い状態でSAに到着するのが上手い運用で、充電器の性能一杯を引き出すことで、同じ停車時間でも充電量を最大にできます。

その意味では、この土山SAに到着した時のSOCは19%だったので、あまり上手くない運用と言えます。これは、自宅出発から考えればそろそろ休憩が必要な距離になることに鑑みて、ここを初回の充電場所と計画した為です。言うまでも無く、安全はEVの運用でも最優先事項です。

この日は、ビック・ベンの朝の鐘をここで鳴らして、コンビニに寄って珈琲を買って、i3に戻って写真を撮っている間に充電終了の時間となりました。つまり、停車時間(街の急速充電は、大半が1回30分まで)の無駄は無かったということです。結局13.5kWh充電してSOCは89%まで回復しましたが、CD走行可能距離表示は92kmでした。

第2スティント
キロポスト標識を利用してCS走行を実施

土山SA到着時のメーター表示。下段右の16kmがCD走行可能距離、左の119kmがCS走行可能距離を示すが、コロコロ変わるので参考程度にしかならない。

土山SA到着時のメーター表示。下段右の16kmがCD走行可能距離、左の119kmがCS走行可能距離を示すが、コロコロ変わるので参考程度にしかならない。

土山SAを12時23分に出発し、165km先の新東名浜松SAに向かいます。土山SAでの停車時間は34分間でした。このスティントはCD走行だけでは走り切れませんから、途中でCS走行が必要でした。CS走行のタイミングを図る時に役立つのが高速道路のキロポスト表示です。

計画の段階で浜松SAのキロポストが189だと調べてあったので、メーターの表示を見ながらCS走行に切り替えるタイミングを探りました。但し、高速道路それぞれでキロポストの基点が異なりますし、このスティントでは三ヶ日JCT〜いなさJCT間約13kmの算入も必要なので、足したり引いたり頭をフル稼働させながらの運転でした。

渋滞区間でCS走行を効率的に運用

東名阪に入り、鈴鹿ICを過ぎると巡航速度が80キロを切るようになります。ここから四日市JCTまでは渋滞頻発区間なのです。確証を得るまでには至らなかったのですが、事前のテストランでi3のエクステンダーは85キロ定速走行付近で効率が良い感触を得ていましたので、東名阪65キロポストから四日市JCTまでの約11kmをCS走行で走りました。伊勢湾岸道に入った時に確認すると、SOCは変わらず、CD走行可能距離表示は93から94に、逆に1km増えていました。余った電力がバッテリーに溜まったということです。

伊勢湾岸道に入ると巡航速度が100キロ前後に上がったのでCD走行に戻しました。CS走行はまだまだ必要でしたが、50km先の豊田JCTで東名高速に乗り継いだ後に暫定3車線の60キロ制限区間が続きますので、そこにCS走行を設定することにして、伊勢湾岸道は巡航速度に乗って走りました。渋滞頻発区間を事前に調べておくことも、エクステンダー運用で無駄を省くポイントのひとつです。

「ECO PRO+」モード

いなさJCTを過ぎ新東名に入ると、キロポストの基点が合うので浜松SAまでの距離計算が容易になります。SOC13.5%で残り12km、SOC7%を切ると強制的にCS走行に切り替わるので、90キロリミッターの効いた大型トラックの後ろに着けて、このチャレンジ初めてのエコランを実施しました。

i3は「ECO PRO+」モードを選べば自動的に最高速が90キロに制限されるのですが、大径タイヤを履いた大型トラックなどとは微妙に速度が合わないので、「ECO PRO」モードのまま走りました。浜松SA到着時のSOCは8.5%、CD走行可能距離表示は残り9kmでした。SOC1桁%から充電を開始できるので、このスティントの運用は上出来でした。

充電2回目(2時間57分経過 216.4km走行)

浜松SAには14時13分に到着し、遅い昼御飯を食べました。30分という充電時間はトイレ休憩には少々長いですが、食事をするには足りません。この日は調理が早いであろうカレーを選び、充電終了とほぼ同時にi3に戻りました。

新東名浜松SAで2回目の充電中。山の稜線に並ぶ大型風車を背景に。

新東名浜松SAで2回目の充電中。山の稜線に並ぶ大型風車を背景に。

ここでの充電量は16.3kWh、CD走行可能距離は111kmまで回復しましたが、CS走行可能距離は、ガソリンは一滴も使っていないのに、122kmから114kmに8km減ってしまいました。

第3スティント
変化が大きいメーター表示

コロコロ変わるメーターの表示だが、定速走行を暫くの間続けると安定する様子だった。直前のエネルギー消費パターンが数値に反映するようだ。

コロコロ変わるメーターの表示だが、定速走行を暫くの間続けると安定する様子だった。直前のエネルギー消費パターンが数値に反映するようだ。

浜松SAを2時46分に出発、次の充電予定は117km先の駿河湾沼津SAです。事前に組んだプランでは、次が最終の充電でした。メーター表示からは僅かに6km足らないだけでしたが、SOC92.5%では多分届かないなあ〜、と感じていたところ、案の定、走り出した直後に表示がガクンと少なくなりました。

100km手前で収支を確認

暫く走行するとメーターの表示も安定して来るので、72キロポストに有る駿河湾沼津SAの丁度100km手前、172キロポストでバッテリー収支を確認しました。172キロポスト通過時のSOCは79%、CD走行可能距離は84kmだったので、メーター表示に基づけば100-84=16kmの不足分をCS走行で補わなければならないということでした。

SOC75%以上ではCS走行への切り替え不可ですから、しばらくCD走行を続けてバッテリーを減らして、150キロポストから140キロポストの間(トンネル区間なので凡そ)をCS走行で走った上で、駿河湾沼津SAから50km手前の122キロポストで再度収支を確認しました。ここでは僅かに3km不足する計算だったので、以後登り勾配だけCS走行で走りました。どうせエクステンダーを使うならば、バッテリー保護を目的に、バッテリー負荷を軽くできる登り勾配で使おうと考えた訳です。

結局CD走行可能距離残5km、SOC6%、エクステンダーが強制稼働した状態で駿河湾沼津SAに到着しました。

充電中の電圧と電流を充電器の画面で確認できる充電器も有る。50kWモデルは概ねそうなっているようだ。沼津SAでは充電電流が40Aを下回った時点で、途中だったが充電を終了して先を急いだ。

充電中の電圧と電流を充電器の画面で確認できる充電器も有る。50kWモデルは概ねそうなっているようだ。沼津SAでは充電電流が40Aを下回った時点で、途中だったが充電を終了して先を急いだ。

充電3回目(4時間43分経過 333.9km走行)
無駄な充電時間は躊躇無くカット

15時59分沼津SA到着、お小水を済ませ、自販機でお茶を買って、i3に戻ってみるとまだ充電時間は半分を過ぎたところでした。写真を撮ったり荷物の整理をしたりしながら待つこと10分、最大では120Aを越えた充電器の電流が40Aを切るようになりました。ここを待っても走行距離は僅かしか増えませんので、最後の3分間は待たずに充電を終了させて出発することにしました。

沼津SAで充電中。お手洗いを済ませてドリンクを買うだけだと約15分、充電終了まで待つなら更に15分間その場に留まることとなる。

沼津SAで充電中。お手洗いを済ませてドリンクを買うだけだと約15分、充電終了まで待つなら更に15分間その場に留まることとなる。

バッテリーEVだと「電欠=行き倒れ」ですから、安全マージンを読んで電流が少なくなっていてもギリギリまで充電したくなるのが人情なのですが、この様に効率の悪い充電時間を躊躇無くカットできる点も、エクステンダー付きの高い実用性を生み出しています。

もっと言えば、充電器に先客が居て、長い充電待ちが発生する場合は尚更です。先のルートに峠越え等が無ければ、次のSAまでCS走行で走行すれば無駄な停車時間の発生を回避できます。事実、ここでの充電時間は浜松SAよりも3分短かったのですが、0.3kWh多い16.6kWhを充電して、16時30分駿河湾沼津SAを出発しました。

第4スティント
計算ミス発覚

SOC92.5%、CS走行可能距離81km、CD走行可能距離94kmでスタートし、ゴールの海老名SA向け走り出しました。ところが、ここで事前に立てたプランで計算ミスを犯していることが発覚しました。海老名SAまでは105kmと計算していたのですが、どうやらそれは清水連絡路を経由した距離を見ていた様子で、実際は76kmしかなかったのです。

最終スティント出発時のSOCは92.5%だった。距離計測を間違えて、不必要な水準まで充電してしまった。

最終スティント出発時のSOCは92.5%だった。距離計測を間違えて、不必要な水準まで充電してしまった。

御殿場で旧東名に合流してそれに気付きました。76kmだと分かっていたら、沼津SAの充電は更に5分は短縮可能でした。エクステンダーの旅に事前のプランニングは大事だなあ〜、と改めて気付かされた出来事でした。

余裕たっぷりな電力量に、更に御殿場〜大井松田間の下り坂では回生発電で戻って来た電力も加わり、結局海老名SAに到着した時には29%の電力が残っていました。

海老名SAゴール(6時間5分経過 410.6km走行)

海老名SAの急速充電器の前にゴール。週末等には充電待ちが発生するので、ここには急速充電器が2台有る。安い普通充電器で良いので、後2〜3器有れば使い易いのになあ〜、と感じる。

海老名SAの急速充電器の前にゴール。週末等には充電待ちが発生するので、ここには急速充電器が2台有る。安い普通充電器で良いので、後2〜3器有れば使い易いのになあ〜、と感じる。

17時21分海老名SA入口側の充電器前にi3を止め、この旅のゴールとしました。ゴール時点でのSOCは29%、CS走行可能距離90km、CD走行可能距離30kmを残してのゴールとなりました。残った電力でCD走行を続け、町田ICを降りて給油したところ、3.85Lのガソリンが入りました。走行距離に関しては、上記は車両のトリップ計の表示で、グーグルの検索では405kmだったことを付記しておきます。

海老名SA到着時のメーター表示。30km分も電力を余らせてしまった。この辺がEVヲタク的には後悔が残るところ。もう1回やったら5時間45分くらいで走れると思っている。

海老名SA到着時のメーター表示。30km分も電力を余らせてしまった。この辺がEVヲタク的には後悔が残るところ。もう1回やったら5時間45分くらいで走れると思っている。

結びに

振り返って見て、計測ミスなど詰めの甘さが散見されて、ヲタク的には納得行く走りとは言えないのですが、ガソリンを3.85L使った以外は、405kmを6時間5分で、全て電気で楽々走り切れるのですから、レンジエクステンダー付i3は、バッテリーEVに極めて近い環境性能を持ちつつ、ガソリン自動車に匹敵する実用性を兼ね備えた、次世代くるま社会の「現実解」だと私は思いました。私の個人的な活動テーマは、「排気ガスは当然ゼロ」「再生可能電力しか使わない」「道路を造る環境負荷もゼロ」なのですが、21世紀を生きるくるま人として、理想とは別に「現実解」はきちんと認識しなければならないと思っています。

最後に1つだけ注意点を付け加えれば、メディアの試乗記でも散見されるのですが、CD走行で走れるだけ走って、ダラダラとCS走行で走り続けるのは危険です。具体的に言えば、SOCが7%を切り、エクステンダーが強制的に稼働を始めている状態で、長い上り坂を登るには限界が有ります。ガソリンが残っていても同様です。エクステンダーの出力は28kWなのですから、登り坂ではエクステンダーが稼働していてもバッテリーは減って行きます。

開発者に取材する機会は無かったので想像ですが、EVの常識としてバッテリー電力がいよいよ無くなると出力制限が掛かります。高速道路で出力制限がかかると最低速度の時速50kmは出せないと思います。一般道ならUターンして坂を下れば回生も加わってジャンジャン充電できますが、高速道路ではそうも行きません。

故に、事前のプランニングが大事なのです。モーター駆動車両は、効率が良い反面ドライバーの思考力を必要とします。思考には大量のぶどう糖を消費するので、ガソリン車よりもダイエットに有効(かもしれません)。

今回のアタックで「ハイブリッドよりエコ、EVより便利」なレンジエキステンダーの実力を感じて頂ければ幸いです。最後まで読んで頂きありがとう御座いました。

高速のガソリンは高いので、一般道に降りてから安いセルフで給油。3.85リッター入りました。i3の給油口には、弁が口元に有って入れ難い。

高速のガソリンは高いので、一般道に降りてから安いセルフで給油。3.85リッター入りました。i3の給油口には、弁が口元に有って入れ難い。

ガソリンのレシート。表面上だけの燃費を言えば405kmを3.85Lのガソリンで走ったので105km/Lだ。但し、電気の環境負荷が何とも言えないので、LCA的な環境負荷は算出出来ない。

ガソリンのレシート。表面上だけの燃費を言えば405kmを3.85Lのガソリンで走ったので105km/Lだ。但し、電気の環境負荷が何とも言えないので、LCA的な環境負荷は算出出来ない。

【参考URL】

●手作りレンジエクステンダーEVで宗谷岬から佐多岬まで日本列島縦断記録
http://www.ironbarcup.com/zevex/page001007094.html

●EV-4WD間宮海峡ゼロエミッション横断チャレンジ総括
http://www.ironbarcup.com/zevex/page001012006000.html

●東海道ゼロエミッションの旅
http://www.ironbarcup.com/zevex/page001007024.html