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舘内端の「自動車の力」:第8回「掘れば地震、掘らねば停電 シェールガスの憂鬱」
「掘れば地震、掘らねば停電 シェールガスの憂鬱」
原発の稼働が完全に停止する可能性が濃厚な現在、頼りは火力発電だ。その燃料として俄然シェールガスが注目されている。
ところが、このガスを掘ると巨大地震が発生する可能性が濃厚になっているのだ。あいかわらずエネルギー問題は頭が痛い。
20世紀のエネルギーを牽引してきた石油の生産は陰り始めている。オイルサンドなど非在来型の石油はまだあるが、掘削、輸送などの生産施設はまだ整わず、とても従来型の石油の代替にはならない。
その一方で石油の需要は拡大を続けている。とくに世界の石油の半分を消費してしまう自動車の増大が拍車をかける。このまま自動車が増え続けると(増え続けるのだが)、2020年には世界最大の石油産油国であるサウジアラビアがあと2国必要になる。もちろん、そんな巨大な需要は現行の油井ではまったく満たせない。
一方、福島の事故以来、世界の原発開発には黄色信号がともっている。とくに北欧、ドイツでは脱原発が進む。このまま世界が成長を続けるには、石油や原発に替わるエネルギーが必要である。
そこに登場したのが、シェールガスである。このガスの組成はメタンが90%の天然ガスだが、埋蔵のされ方と掘削方法が従来型の天然ガスと違い、これまでは掘削が不可能であった。
最近、米国の企業が長年の研究の結果、掘削できることがわかり、ここにきてにわかに注目を浴び、従来型の天然ガスの価格を一気に低下させるまでになった。
また、エネルギー問題をどの国よりも抱える米国では、オバマ大統領が率先してシェールガスの生産を推進している。
シェールガスの埋蔵地域は、米国、カナダ、ヨーロッパ、中国と広範囲にわたっている。埋蔵量は豊富で、可採可能な量は、従来型天然ガスの現在の埋蔵量の60%である。また、可採可能年数は60年から160年といわれる。
天然ガス、シェールガスの大きなメリットは、CO2排出量が少ないことと、不純物が少ないので排出ガスの処理が容易なことだ。
ということで、脱石油の昨今、シェールガスには世界中から熱い視線が注がれることになった。
おそらく2020年近傍では、自動車用燃料には大変革が起こらざるを得ない。自動車が生き残る上で、脱石油は必須だ。
一方、自動車のCO2排出量規制は世界各国で厳しさを増す。脱石油は必須だが、だからといってCO2排出量の多い燃料、埋蔵量が少ない燃料も使えない。
また、自動車メーカーとしては既存の生産インフラと雇用を守るために、エンジン車は残したい。
つまり、自動車メーカーにとって、エンジンで燃やせてCO2排出量が少なく石油に替わる燃料が手が出るほど欲しいのだ。そこにシェールガスである。オバマ大統領が多額の開発費を計上したように、これからは天然ガス自動車=NGVが脚光を浴びるだろう。
ところが、脚光を浴びるシェールガスの掘削に暗雲が垂れ込めている。掘削地にマグニチュード3を超える地震が頻発しているというのだ。
4月26日付の朝日新聞朝刊は、次のように伝えている。
米国の地震学会によると、米国中部のM3クラスの地震が00年までは年平均21回だったものが、09年は50回、10年は87回、11年は134回と6倍以上に増えている。また、11年にはコロラド州とオクラホマ州でM5を超える観測史上最大級の地震さえも起きているという。
このような地震の増大に対して、研究チームは「自然原因とは考えにくい」といい、シェールガスの採掘が誘発している可能性が強いという。
というのは、シェールガスの採掘には大量の水を使い、それを高圧で地下に戻しているからだ。その結果、地下に戻された水が、断層の隙間に入り込んで岩盤が滑りやすくなり、地震を誘発していると考えられるのである。
30キロ四方に8本の井戸が集まるアーカンソー州のシェールガス採掘場では、M2.5以上の地震が採掘がはじまった09年に10回、11年には157回に激増した。
掘れば地震、掘らねば停電とは何とも困った話である。その上、シェールガスを掘ると水道水が燃えるという話もある。若者が自費で製作した「ガスランド」という評判のドキュメンタリーの報告だ。
シェールガスは、頁岩(ケツガン)と呼ばれる岩盤の間に浸み込んだ形で埋蔵されている。そこに潤滑剤を混入させた高圧の水を大量に注入し、岩盤を砕いてガスを採掘する。発生したガスは井戸を通って噴出するのだが、残りのガスが地下水に混入し、それが水道水に混じる。メタンが90%だから蛇口から出た水に火を近づけると燃えるわけである。
また、廃水にはホルムアルデヒドも含まれているために、井戸の周辺の住民に化学物質アレルギーが起きているとも報告されている。
いずれにしても、シェールガスの採掘には大量に発生する廃水の処理が大問題である。
同じことは、これも大量の廃水が発生するオイルサンドの精製にもいえる。オイルサンドから石油を抽出するには高温の水蒸気が必要で、これが冷えると石油を含んだ排水になる。オイルサンドの採掘現場には、有害な廃水の池が大量にできるのである。
もちろん石油の採掘にも問題がないわけではない。しかし、これまでの技術開発によってそれらの数多い問題を解決してきた。ただし、大量のCO2の排出という問題は解決できていないが。
シェールガスにしても、オイルサンドにしても、今後は技術開発を行って、環境問題をゼロにしなければならない。問題は、石油の供給不足が解決スピードを上回るほどに速い場合だ。
今後も、被害住民と採掘企業の間で、かつてそうだったような争いが起こると思うと、そこまでしてエンジン自動車には乗りたくないと思ってしまう。
21世紀は、これまでにないほどのエネルギー問題が噴出するだろう。多くの民族、国家がエネルギー問題で消滅したように、現代文明も消滅するのだろうか。消滅のスイッチを押すのはエンジン自動車なのだろうか。
文:舘内端
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