1000kmへのロードマップ

どうすればよいのか

途中無充電1000kmを達成するには、とにかくミラEVの走行抵抗を削減するしかなかった。というのも、航続距離を決定する電池(三洋電機のリチウムイオン電池)の搭載量は74kWhで、これは東京~大阪途中無充電の旅のときと同じだからだ。貯金(電力量)が同じなら、支出(走行抵抗)を減らすしかない。

しかし、公道を走ったのではストップ&ゴーがあって電費は悪化する。東京~大阪のデーターでは、およそ600kmしか走れない。ストップ&ゴーがない道路は高速道路だが、ここでは空気抵抗が大きく、やはり電費が悪化してしまう。結論はサーキットをゆっくり走る方法だった。しかも加減速のないサーキットである。それは、同じ速度でずっと走れるオーバルコースということだ。

走行抵抗を減らして、オーバルコースで走る。これがまずは1000km達成の絶対条件であった。

コースを探せ

ということで、オーバルコースを探した。しかし、使用料が高い、日程が合わない、2日間専有できるほどスケジュールが空いていないといったことで、いわゆるテストコースの借用は全滅であった。

そこに今回使用するオートレース選手養成所のオーバルコースが浮かび上がった。このコースは、名前の通りオートレースの選手を育てる練習場である。1周が内側の白線で500m、一番外側の白線上で1周689mである。ここを借りられれば、チャレンジは半ば成功したようなものである。

オートレースの選手養成は、隔年で行なわれる。残念ながら今年は養成の年に当たっていた。ダメだと、はなからあきらめていた。ところがである。養成が始まるのは秋からだという情報が入った。だったら春に実施すればオーバルコースを借りられるではないか。急遽、財団法人JKAを訪問、5月のオーバルコース借用をお願いした。これに対してJKAから快諾を得られた。1000kmへ、第一関門は無事に通過できたのだ。

走ってみると.... 1000kmなど無理であった

実はJKAにお世話になるかもしれないと、09年12月5日にミラEVで同コースを走っていたのだった。

この日は、日本EVクラブとせたがや文化財団で開催している「中学生EV教室」の最終授業であった。授業は、子供たちが組立てた“サイドバイサイド”と呼ぶ電気フォーミュラーカーに同コースでみんなで試乗するものであった。どうせならミラEVにも乗ってもらおうと、実はミラEVも用意していた。授業を終えて、改めてミラEVを時速40キロで走らせたのだが.......。

このときの電費は85Wh/kmであった。これは、ミラEVが1km走るには85ワットの電球を1時間点灯させたときに消費するのと同じ電力量を使うということだ。一方、ミラEVをしっかり充電すると74kWh近い電力量を電池に蓄えることができる。74kWhは74000Wh。これを上記の85Wh/kmで割ると、可能な走行距離を求められる。それは、871kmであった。1000kmには129km不足していた。このままでは1000kmは達成できない。では、どうするか。

ちなみに、このときのミラEVは、2人乗車で、タイヤはトーヨータイヤのエコウォーカーであった。東京~大阪途中無充電の旅に履いたタイヤであった。抵抗が大きいどころか、相当な省エネタイヤであった。もう少し、タイヤの抵抗を減らせれば、あるいは1000kmを達成できるかもしれない.....。スタッフは、一条の光を感じた。

走行抵抗の秘密を暴く

時速40キロで走るというのが、電気自動車の航続距離測定の方法だ。そこで、時速40キロで走る場合の走行抵抗を調べることにした。そして、しらみつぶしに走行抵抗を削り取っていこうという作戦である。

09年12月5日に測定した85Wh/kmという走行抵抗の内訳をしらべることにした。すると、インバーター/モーターのロスが20%、機械系のロスが12.8%、空気抵抗によるロスが22.4%、タイヤの転がり抵抗が44.8%という結果が出た。どうやら走行抵抗の低減のポイントは、タイヤの転がり抵抗の低減らしかった。

走行抵抗を削減するにしても、インバーター/モーターはいじるわけにはいかなかった。機械系のロスもどうしようもなかった。だからといってボデイを改造して空気抵抗を少なくすればかたちがミラではなくなってしまう。転がり抵抗を削減するしかなかった。トーヨータイヤの出番であった。

転がり抵抗は、タイヤと路面で決まる転がり抵抗係数にタイヤに加わる荷重を掛け合わせたものだ。したがって、転がり抵抗を削減するには、転がり抵抗係数を小さくする、車体を軽量化するという2つの方法があることが分かる。転がり抵抗係数の削減は、トーヨータイヤにお願いするしかない。きっと東洋ゴム研究所の総力を上げて取り組んでくれるに違いない。

シートを替えろ

車体の軽量化といっても、私たちにはなかなか手が出せない。そこで装備品の軽量化を考えた。しかし、ホイールはレイズの超軽量ホイールがすでに東京~大阪途中無充電の旅から装着されている。残るのはシートだ。意外かもしれないが、シートはけっこう重い。シートヒーターをわざわざ取り付けていただいたレカロのシートの重さは、1脚25kgである。助手席も入れて2脚で50kgだ。

軽量化が求められるレーシングカーやスポーツカーには、軽量なシートが装備されている。そこでレカロにお願いして、超軽量なカーボンファイバー/ケブラー製の特製シートをお借りした。なんと1脚わずか3kgだ。もう1脚は、2001年に充電しながら日本を1周した日本EVクラブのEV Aクラスで使ったレース用の軽量なレカロを使う。これでほぼ40kg近い軽量化である。あとは省エネ運転の徹底とドライバーの軽量化? だ。

がんばれタイヤ

年が明けて10年3月11日。私たちはオートレース選手養成所のオーバルコースにいた。いよいよタイヤテストが始まる。トーヨータイヤは、この日のために3種類の試作タイヤを用意した。いずれもエコウォーカーを改良して転がり抵抗係数を低減したものだった。

しかし、思うような電費がでない。東京~大阪途中無充電の旅で使ったエコウォーカーと同じ電費なのである。直線ではスルスルと転がるのだが、カーブになるとうまく白線に乗せられない。現象は分かったが、電費が出ない原因は不明だった。

バンクを使え

チャレンジに使うオーバルコースは、2.25度の緩いバンクがついている。このバンクを使うことにした。なぜ?

カーブを曲がるには、タイヤが求心力を発生しなければらない。求心力の一部は、自動車を引き戻す力になる。その分、走行抵抗が増大してしまう。カーブを曲がるときに発生する走行抵抗の増加分を軽減するには、求心力を小さくするしかない。それには、カーブの半径を大きくする、速度を遅くするの2つの方法がある。しかし、時速40キロ以下で走るわけにはいかない。そこで内側の白線ではなく外側の白線の上を走ることによって、カーブの半径を大きくした。しかし、方法はこれだけだろうか。

バンクを使うと、求心力の一部をキャンセルできる。求心力の一部は、車体を押し付ける力に替わるからである。そこで計算してみると、バンクを使うと求心力はおよそ0.1Gで収まることが分かった。うまくバンクを使えば良いのだ。

カーブを曲がる性能を向上させる

1周689mのオーバルコースのうちカーブは実に517mで、これは1周の75%に当たる。つまり、チャレンジ1000kmでは750kmにわたってカーブを走るのである。カーブを制した者が、1000kmを制するのだ。

3月11日のテスト結果を受けて、私たちはタイヤの改良コンセプトをコーナリング性能の向上においた。カーブをきちんと走れると、速度の低下が少なく、安心してアクセルを踏むことができる。ストップ&ゴーが少ないと燃費が良くなるように、アクセル一定で走れると電費が良くなるのである。

一方、3月11日のタイヤは、直線では転がり抵抗が少ないが、カーブを安定して走る性能が少し欠けていた。それで、ドライバーはカーブに入る前にアクセルを緩めなければならない。アクセルを緩めてモーターの出力を少なくすると、上記したカーブで増大する走行抵抗によって速度が低下するので、ドライバーは今度はアクセルを余計に踏み込むことになる。カーブへの進入と脱出時に、軽いストップ&ゴー状態が生まれてしまう。これが電費悪化の原因であった。

3月29日。私たちは2回目のテストを敢行した。トーヨータイヤが超特急で新しいタイヤを試作したのだ。今回のタイヤは、コーナリング性能を高めたものであった。

その結果は、1000km達成に希望を抱けるものであった。テストドライバーによれば、安心してカーブへ進入時できるので、アクセルを緩めずにすむということだった。当たりであった。電費も第1回の85Wh/kmから75Wh/kmへと、ずっと良くなっていた。

タイヤ改良のコンフセプトは正しかった。安心して改良に取り組める。夢の1000km達成まで、もう一息であった。

夢のタイヤができた

5月12日。1000kmチャレンジに向けて3回目のテストを行なった。周回数の測定器をテストしたかったこともあったが、やはり試作タイヤの仕上がりが気になった。予定外であったが、急遽テストを行なうことにして、JKAにコースの借用をお願いした。また、トーヨータイヤには大急ぎで試作を行なってもらった。

コースに持ち込まれたタイヤは3種類。しかし、特性が異なるのは後輪だけ。前輪は前回テストして好結果を得られたものを使い、後輪だけを取り替えてのテストである。つまり、前回でかなり転がり抵抗を削減できたので、後輪を調整してさらに操縦性を向上させようというわけだった。操縦性を向上させられれば、電費も向上するという理論である。

いつものように私たちのトップガンの薄井氏が走り出した。数周もしないうちに、「このタイヤ、よく転がります。とってもハンドリングがいいです」とトランシーバーを介してドライバーの声が届いた。最初のタイヤの30分、30周のテストを終えて消費電力量を測定し、電費に換算すると、なんと目標の70Wh/kmを切って68.5Wh/kmという数値が出た。「これなら1000km達成できるぞ!」。私の声にピットに歓声が上がった。

なんのことはなかった。街中で高速道路で安心して快適に乗れるタイヤを作ればよかったのだ。私たちは完成したタイヤに、いつか市販されることを願って「エコウォーカーチャレンジ1000」という名前を進呈した。

その後に、2種類の後輪タイヤをテストした。いずれもすぐれた電費をマークできた。とくに最後にテストしたタイヤは、集中して走るとさらなる良い電費がマークできそうだった。しかし、最初のタイヤであれば、だれでも良い電費をマークできそうだということで、チャレンジに使うタイヤはこのタイヤに決定したのだった。だが、ドラマはまだ終らなかった。

テストの最後に、スタッフ全員で乗ろうということになった。いずれチャレンジでは乗らなければならない。少しでも慣れておこうというわけだ。そこでまずはチャレンジのスタートドライバーになる私が乗った。数周は要領がつかめなかったが、大阪まで555.6kmを1人でハンドルを握った経験を生かしてエコドライブに挑むと、67.2Wh/kmが出た。トップガンより良い。続いて東洋ゴム研究所の女性設計者の大砂さんが乗る。なんと66.8Wh/kmだ。私の面子はまるつぶれだった。しかし、4番目に乗った日本EVクラブ事務局の石川さんは、なんと60.5Wh/kmというとんでもない電費をマークしたのである。この電費であれば、1223kmも走れる。ドライバーは石川さんに決定だ。25時間1人で走ってもらう。いや、いや。冗談である。

しかし、まだ1000kmを達成できたわけではない。あくまでも計算上の話だ。実際のチャレンジでは、省エネに大敵の雨が降る可能性が大きい。体重の重いドライバーが乗るかもしれない。えっ、それは私のことだってか? ウーン。

文責:舘内端(日本EVクラブ 代表)

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