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【舘内レポート】ppm の傲慢

11月3日(日)。まずは楽天日本一おめでとうでしょう。EVスーパーセブンで八戸から仙台まで三陸を走った私に、この優勝で喜ぶ東北の人たちの気持ちが伝わってきて、なんだか泣けてしまった。ここは、楽天が優勝しないといけなかったし、優勝したことで日本中元気になれたのではないかな。とてもよかった。選手の皆さん、ごくろうさま。東北といわず、日本の多くの人たちを勇気づけたと思いますよ。

さて、実は今日も酒漬けだった。日本EVクラブ熊本支部のみなさんの大歓迎にあったのだ。しかも馬肉がダメな私のために別メニューまで用意していただけて、感謝である。熊本に来ると、必ずこうした歓迎攻めにあうのだが、今日はまた特別だった。この20年とは、EVの輪が広がり、根付いてきた年月だが、それを見事に体現しているのが、熊本支部だ。花も嵐も乗り越えて、よくもまあ続いたものである。おめでとう。

今日は、酒漬けになる前に、小雨降る九州自動車道を八代から熊本まで走った。EVスーパーセブンのドライバーは、リーフで全日本ラリー選手権に優勝した国沢さん。大きい体を器用に折りたたんで乗り降りしながら、無事に雨の中を熊本に着いた。お疲れさん。かくいう私は、またアウトランダーPHEVの助手席でうつらうつらであった。

昨日、八代へは水俣から向かったのだが、寄本さんの発案で途中、小さな港に立ち寄った。猫があちらこちらにいる。どこかで見た記憶のある港だった。そこからすぐのところに“チッソ”があった。してみると、その港は水俣病の被害が大きかった地域かもしれなかった。

天皇、皇后両陛下がご来臨したことで、ようやく水俣の病が強く事実認定されることになり、私としてもホッとしている。しかし、病むからだが元に戻ったわけではなく、いまだに重い症状に耐える日々が続いている人たちのことを思うと、足尾銅山の鉱毒に犯された渡良瀬川の流れる桐生市に生まれ、足尾の山で青春を過ごした私としては、その事実が重く肩にのしかかる。

その港から広がる水俣湾は、とても広かった。その先の海洋に向かってどーんと広がる湾の大きさは、まったく想像を超えるものだった。はるか彼方に水平線が広がるその広い、広い水俣湾を、ppmという単位のほんのわずかな水銀を垂れ流し続けたことで、水俣の病は広く、深く、住む人たちのからだを蝕み、心をこなごなに砕いたのだった。ほんのわずかな水銀が、である。

水俣湾の広さと、ppmという極小単位の間の量的な関係が私の中でうまくつながらず、私はずっと海を見続けた。こんなに広い湾の水はいったい何リッターあるのだろうか。そこに流された水銀の重さは何グラムだったのだろうか。私は湾を見続けるしかなかった。そして、ほんのわずかな、ミクロン単位の量で、生命は命の循環を狂わせるのだとつくづく思った。

そこから八代市への道で、ふと吸い寄せられるように車窓から左を見ると、“星野富弘美術館ここから200メートル”の看板が眼に入った。

「ここだったのか。ここだったのか」と私はアウトランダーPHEVの助手席で小躍りした。

突然訪れたEVスーパーセブン野郎たちを、美術館の人たちは快く迎えてくれた。美術館はこじんまりしているが、フローリングの床と布壁だったからかもしれないが、床の木の茶色と壁のクロスの淡い白色が調和して、中は何だか暖かい。そして熱気があった。気恥ずかしい言い方だが、星野富弘の愛に包まれた美術館だった。

入り口の壁に、星野とお母さんと奥様の昌子さんが写った写真が飾られていた。スタッフの原田さんに聞くと、芦北町の海岸で水俣湾をバックに撮った写真だという。今年で93歳になるお母さんが元気に撮れていた。

星野は、海岸でずっと静かに水俣湾を見続けていたという。あの陽気でおしゃべりな星野がじっと海を見つめていた訳を、「生まれ故郷の群馬には海がないから……」と答えたという。だが、同じ渡良瀬川の水で水泳を覚え、土手でいつまでも語り合った友人の星野である。そして人一倍、傷ついた人たちに優しい星野である。きっと水俣の病に傷つき、苦しむ人たちに想いを寄せ、病が癒え、心安らかなることを祈り続けていたに違いない。

熊本支部の事務局長で、知る人はみな肝っ玉母ちゃんと呼ぶ上田照美さんは、熊本でもどんより曇っている日は喉が痛くなるという。中国から飛来する微粒子が原因ではないかというのだ。あのPM2.5ではないだろうか。

考えて見れば、PM2.5とは極小物質である。ほんのわずかな大きさの粒子であり、のどを痛める大気中の濃度は、これもまたわずかだ。しかし、ガンの原因物質であり、わずかな量でも生態系を狂わせるだけのパワーを持っている。極小でも、ほんのわずかでも、生命の循環を狂わせるのである。

福島には、これも目に見えない極小の放射線によって、ふるさとを追われた人たちがいる。セシウムにしろ、ストロンチュームにしろ、ほんのわずかで生態系を狂わせるのだ。

同じことはCO2にもいえる。大気中の濃度がたった450ppmでも、地球の気候は大変動を起こし、元の気候にもどれない。そして、今年、CO2濃度はついに400ppmを超えてしまった。日本列島は来年もまた30個以上の強大な台風に襲われるのだろう。

私たちは、もっと繊細にならなければならない。繊細にならなければ、自然のわずかな変化を容易に見逃してしまい、取り返しのつかないことになる。

かつて、人類が科学や技術による自然の大改造を行なう前は、人類は、小鳥のように、あるいは魚のように、自然の変化にもっと敏感であった。そうして自然の変化に繊細なことで生き延びてこられたのだ。

しかし、機械文明は、より便利に、より快適に、より早く、より遠くへと生活を拡大させた代わりに、人間たちの感覚をひどく鈍感にしてしまった。もう、私たちには各種の測定器を介さなければ地球の声が聞こえなくなってしまった。人類のほんとうの危機とは、このことなのだ。

EVスーパーセブンによる私の二度目の旅は、明日で終わりだ。後は寄本さんと国沢さんにまかせよう。

(舘内 端)
 


2 Responses to “【舘内レポート】ppm の傲慢”

  1. ピーター・ヒューズ

    広い海と広い空。そこに、薄めなくても見えないくらいのチョッとの異物。それが混じっただけで、あの惨劇。
    いかに自然界の絶妙なバランスの上に人間は生かされているのでしょう。
    考えさせられます…。

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  2. applefanjp

    舘内先生
    本日は、ようこそ、EVスーパーセブンで熊本城三の丸駐車場へ!

    息子たちばかりか
    私までスーパーセブンの助手席にありがとうございました。
    かつてのNAVIトークを楽しみに読んでいた私です。
    舘内代表の横に座って、ドライブしていただけたこと
    感激でした!

    また、代表が星野富弘さんとそういう間柄とは
    知りませんでした。
    私も子どもたちに星野さんのことを伝えてきて
    多くを学んできました。

    水俣、芦北、八代、熊本と
    このEVの旅に選んでいただきましたこと
    御礼申し上げます。

    熊西オートの上田様ご夫妻も大変良い方。

    これからも末永く、よろしくお願いします。

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