期待以上の、千年松。
2013年10月24日。今朝は、来島海峡を眼前に望む『千年松』という宿で目覚めた。この旅では日常になってしまった夜明け前の原稿書き。対岸に見える明かりは、今治市街や工場群だ。
しまなみ海道に来るのは3度目になるだろうか。
これで、3回とも千年松に泊まったことになる。
私のライターとしてのキャリアは旅雑誌を作ることから始まったので、全国のいろんな宿を取材させていただいてきた。年間に100泊近い旅取材を重ねた時期もある。
初めて「しまなみ海道」を訪れたのは、10年ほど前になるだろうか。この千年松に泊まって「これは、日本一の民宿だ」と感激した。
その翌年だったろうか。まだ小学生だった長男を連れて家族でしまなみ海道を訪れて、自転車で島を巡ってオヤジが一番へろへろになりながら、たどり着いた宿がまた千年松だった。
当時、千年松は「民宿」だった。でも、来島海峡で水揚げされた新鮮な鯛やアワビを使った料理のうまさは抜群で、高級割烹を思わせる食事処のしつらえは豪胆でユニークで。たしか、完成したばかりの『満天の湯』の来島海峡海水露天風呂からの眺めは最高で。客室の雰囲気は海水浴場の「民宿」でありながら、宿のそこかしこに、ちょっとした高級旅館をしのぐ工夫が凝らされていることに感激した。
伊豆などの民宿を名乗る宿にも、旅館顔負けの豪華な料理を楽しめたり、野趣満点の露天風呂自慢の宿があったりするが。千年松で感じる「趣向」には、意表を突いた遊びごころと、きっぷのいいもてなしの心が感じられて、すばらしく居心地がいい空間だったのだ。
EVスーパーセブンで到着したときには、もう空は真っ暗になっていたが、外観や玄関ロビーの雰囲気は数年前に家族で訪れた時とほとんど変わっていないと見えた。
石井さんに「部屋はやっぱり民宿なんだけど、料理や風呂は抜群で、目の前の浜はプライベートビーチみたいなもんだから。まあ、明日は雨ですけどね」などと言い訳じみた自慢をしつつ。
チェックインを済ませ、客室に通されて驚いた。
建物そのものは変わっていないが、リニューアルした客室はちょっとした高級旅館の風情に変貌していたのだ。
ただし。
高級旅館が「贅」を楽しませる工夫を凝らすのに比べ、千年松の客室にはどこか、センスのいい漁師さんがもてなしてくれるような、抜けのいい居心地のよさが漂っている。
改めてチェックインの時にいただいたパンフレットを見ると、宿の肩書きは「民宿」ではなく「海宿」となっている。
なるほど。
民宿でも旅館でもない、新しいカテゴリーの宿、ということだろう。
かなり無理目な言いぐさだけど。
訪れた人にとって、本当に大切なところに的を絞って工夫を凝らす千年松の進化っぷり。エンジン自動車が電気自動車に変わっていくときの「進化」のあり方のヒントになりそうな気がする。
あまり褒めすぎて、期待過剰で出かけると、ついつい粗探しになってしまいがちだから褒めるのはこのくらいにしておくが。。。
自動車のエンジニアやデザイナーの方が、EV開発に取り組む時には、ぜひ一度、千年松に泊まってみてほしい、とさえ思う。
もちろん、夕食は抜群だった。到着時間が19時半ごろになって、旅館や民宿の食事時間としては大遅刻してしまったが、女将さんをはじめ担当してくれたスタッフの方々には、とても気持ちのいい対応をしていただいた。
期待して訪れて。
期待以上の楽しさや美味さを満喫し。
また、しまなみ海道に来たい。
そして、また千年松に泊まりたい、と思わせてくれる宿なのだった。
重ねて無理目な言いぐさだけど。
自動車も、同じだと思う。
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