【舘内レポート】海や地球の愛し方
今日、10月9日で私の担当区間はひとまずおしまい。
朝は寄本さんと宮城県庁に行って、部長さんと乙女2人をEVスーパーセブンにお乗せして、ホテルに戻って、寄本さんとEVスーパーセブンにさよならをして、11時26分の東京行きの東北新幹線に乗った。
新青森からの列車だから、八戸の東北自動車からの帰りにいつも乗った列車と同じである。EVスーパーセブンが完成するまでに、何度乗ったことだろうか。それにしても東北自動車さんとのコラボは大成功だった。
仙台駅で、取材でお世話になった高政の笹かまぼこを買おうとしたが、新幹線の発車までの時間がない。それでもと、うろうろしたがこんなときに売店が見つからない。あきらめたが、あきらめるほどに食べたくなった。ああ、EVスーパーセブンのようにおいしい高政の笹かまが食べたかった。
東京にひとまず戻ってみて、みなさんにお伝えしたいことがたくさんあることに気づいたが、そのすべては、たぶん旅を終えてから寄本さんが出してくれるであろう電子ブックの「EVスーパーセブン急速充電の旅〜そのすべて」(仮)なる本に書こう。
青森県八戸から岩手県の久慈、宮古、大船渡、陸前高田、宮城県に入って、気仙沼、石巻、松島、そして仙台とめぐった、わずか7日間でも印象に残ったことはたくさんあって、この旅の濃度は北海道の牛乳シチュウよりも、フランスの海鮮スープである“スープドポアゾン”よりも、ずっと濃い。
東京に戻ったこのからだには、まだEVスーパーセブンの感触が残っていて、「今度は私が運転する番だ」と、昼寝から覚めて錯覚したりしている。しかし、このEVスーパーセブンの楽しさと、三陸地方を襲った津波の被害が、同じ旅の“濃度”の中に鎮座しているのが、なんとも哀しい。
津波の被害とは、愛してやまない海に襲われることである。愛の対象に命を奪われるとは……。これほど哀しいことはない。
漁をする人たちにたくさんの幸を恵み、毎日の生活の基盤となり、懐かしい故郷であり、自分が何者であるか教えてくれる大切な相手であり、いくら見ても飽きない美しい景色、そしてあらゆる生命の命の源、すべての人間になくてはならない存在である海。だから、海をめぐる歌は、世界中にある。
しかし、ときに海は荒れ狂う。命を奪い、船を難破させ、陸の生活の基盤を破壊する。もっとも強く荒れ狂うのが津波である。その原因は海底の地殻変動だ。地球が変化してやまない生命体であることを誇示する瞬間に起こす地殻の変動である。
私たちが愛してやまない地球は、私たちが都合の良いように存在しているわけではなく、地球は地球の論理、生き方に基づいて生きている。私たちは、地球の生き方に即して幸を頂き、命を育む以外に手はない。地球の論理に刃向うことはできない。そして、ひたすら地球の怒りを、海の怒りを鎮めるべく、祈りをささげるのである。それが海を詠うということである。
小学校以来の私の友人は、わずか17歳で、彼が愛してやまなかった山で遭難し、命を失った。彼が高校3年の春のことであった。若さゆえに山が何者であるかを理解できず、山の論理に刃向ってしまったのだった。その場に居合わせた私は、血の気が引いて次第に土気色になっていく彼の顔を見て、ひどく動揺した。
彼があれほど愛した山は、なぜ彼の命を奪うのか。若かった私には理解できなかった。いや、正確にいえば、それから59年間、つまり現在まで理解できずにいる。愛するということはそういうことだと、愛は惜しみなく奪い取る存在だと、自然の摂理とはそういうものだと、生きるとは哀しいものだと、私は私に言い聞かせるしか彼の死という事実を受け止められないでいる。
祈ろう。そして山を歌おう。私は私の慟哭をそうして鎮めるのだ。
三陸で家族を家を失った人々の多くは、自分を自分たらしめてくれた海をもう一度愛そうと立ち上がった。すべての建物が消失し、背の高い草たちが風になびく茫々とした広い広い荒野の一角に、小さな小さなプレハブを建て、同じ地域、同じ商売仲間が集い、ささやかな市場を造る風景をEVスーパーセブンの旅で何度も目にすることができた。
そうか。みなさんは海を愛する心を再び奮い立たせているのだ。恐ろしい牙をむき、母を、父を、兄弟を奪い、地域の絆を引きちぎった海を、また愛そうというのだ。私は、彼らの決断と、勇気と、しぶとさと、根性と、覚悟の中に、ほとばしる命の輝きを見た。なぜか、涙がこぼれて、そして温かい気持ちに包まれ、とても幸せになれた。私は、三陸のみなさんから、大きな大きな力を頂いた。
三陸の人たちは、「海が愛してくれない」なんていわない。それは愛することのはきちがいである。愛するって、ひたすら捧げ尽くすことなのだ。見かえりは求めてはならない。そう思うしか、三陸の人たちの想いを納得することはできない。でも、その想いはとてつもなく美しく、尊い。三陸の人たちにそんな美しい心を育んだものこそ、三陸の海なのだ。きっとそうだ。だから彼らは海を愛するのである。
EVスーパーセブンによる急速充電の旅も、そんな彼らの無償の愛を見習って全国を旅したいものだ。
セブンが呼んでいる。私は、また旅に戻ろう。
(舘内 端)
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